残業代の遡及払いを行う際の税・社会保険料等の取り扱い

こんにちは、三ツ星HRコンサルオフィスです。

労働基準監督署から未払い残業代の行政指導を受けたり、労使紛争により未払い残業を支払うことになったりするケース、増えています。

数百万円の支払いを求められることも多々ありますが、税・社会保険料等の取り扱いはどのうようにすればよいのか、迷うところです。

そこで当記事では、残業代の遡及払いが発生した場合の税・社会保険料等の処理方法をまとめてみました。

遭遇したくないことですが、実務上、知っておいて損はない内容です。

賃金の遡求権とは

労働基準法(以下、労基法)における賃金とは、「賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう」とされており、賃金の遡及ケインに関する時効についても定められています。

過去の未払い残業代は、この労基法における「賃金」に該当し、労働基準監督署による行政指導の際には、時効の期間を限度に遡及払いが命じられます。

所得税法上の取り扱い

給与所得とは、使用人や役員に支払う俸給や給料、賃金、歳費、賞与のほか、これらの性質を有するもの(所得税法28条)であり、1〜12月の1年間の給与所得の総額に対して、所得税額が決定されます。

会社員であれば、年末調整により「所得税の決定」差帳を会社が代行しています。

また、年間の所得額に基づき、住民税額が算出されます。

未払いの残業代を過去にさかのぼって支払う場合、本来支払われるべきだった日に応じて「どの年度の残業代であるのか」を確認する必要があります。

各年で既に確定されていた給与所得の総額が増加するのであれば、決定された所得税額の再計算が必要です。

会社年末調整を実施していれば、会社による年末調整の修正(再年末調整)を行いますが、個人で所得税の確定申告を行っている場合には、確定申告の修正(修正申告)を行う必要があります。

また、当該年度から算出された住民税額についても、同様に再計算となり、市区町村への報告書類である「給与支払報告書」の再提出も必要となります。

社会保険料等の取り扱い

次に、社会保険料等の取り扱いは、「社会保険(健康保険・介護保険・厚生年金保険)」と「労働保険(労災保険・雇用保険)」の二つに分けて考えます。

社会保険

社会保険料は、報酬月額に応じて設定された標準報酬月額に対し、保険料率を掛けることで算出されます。

報酬月額には、残業代も含まれるため、遡及払いの残業代がある場合には、現時点の標準報酬月額が低く設定されている可能性があります。

標準報酬月額は、定時決定や随時改定によって改定されますが、遡及払いの残業代が本来支給されるべきであった年月日に支給されたとみなした場合、定時決定や随時改定の修正が必要かどうかを確認し、必要に応じて届出を行います。

なお、修正の届出により、標準報酬月額が変更になった際は、毎月の社会保険料控除額が変更となって、控除済額との差額を算出し、過不足額の精算を行います。

労働保険

労働保険料は、4月〜翌年3月を1年度として、保険料を算出・申告する制度です(年度更新)。

遡及払いの残業代が、どの年度に対するものかを確認し、当該年度に対する年度更新を修正して申告する必要があります。

労働保険料のうち、労災保険料の算出には、労災保険料率を用います。

なお、労災保険料率は3年ごとに見直しが行われるため、現在の料率と差異はないかの確認が必要です。

雇用保険料も同様に、雇用保険料率の見直しが適宜行われるため注意が必要です。

また、労災保険料は全額を事業主が負担しますが、雇用保険料については労働者にも一部負担がありますので、遡及で労働保険料のを算出した際には、本人負担分の精算を行います。

なお、社会保険料・雇用保険料の本人負担額は、所得税額の計算にも加味されうため、上記精算の年度に応じて、所得税の再計算も必要となります。

最後に

未払い残業代の遡及払いを行う場合、遡及した年月日を特定し、それぞれ過去に支給されたものとみなして処理を行うことが原則です。

ただし、原則に基づいた処理は、会社・受給者本人・関係官庁に影響が大きいため、未払い残業代に相当する一時金支給を前提に、労使合意の上、支給年分の賞与とする実務的な取り扱いもあります。

なお、法人税法上の取り扱いでは、債務確定の要件が満たされた期において損金処理を行うため、いずれのケースでも遡及払を実施した期において損金処理を行うことに留意してください。

令和2年4月施行の改正民法に伴って、労基法が改正され、賃金請求権の時効は2年から5年(ただし、当分の間は3年)に延長されました。

過去の未払い残業の精算にかかる費用は、さらなる増加が予想されますので、これまで以上に未払い残業代が発生しない体制構築が求められます。